建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

4-9 パス間温度と溶接強度

多層盛溶接時のパス間温度について教えてください。

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A

溶接金属の機械的性質の良否は溶接施工条件に大きく関係しています。特に、入熱・パス間温度が高くなればなるほど溶接金属の強度や靭性は低下します。その為、鉄骨工事技術指針1)では表に示す入熱・パス間温度の上限値を規定しています。

入熱量は式(1)より算出され、電流・電圧及び溶接速度に依存します。現在入熱量の管理方法で多く採用されている方法はパス数の管理です。パス数が多くなれば、1パス当りの溶接速度が小さくなり入熱量はおのずと小さくなる為、板厚毎に溶接積層図をあらかじめ設定しておけば入熱量の管理は比較的簡単に行なえます。

計算式

一方パス間温度ですが、パス間温度の管理をするという事は間接的に溶着金属の冷却速度を制御している事と等しいのです。溶着金属の冷却速度は強度と相関がある事が知られており、一般的に冷却速度が遅くなれば強度は低下します。本来なら溶着金属の冷却速度を管理するべきなのですが物理的に不可能な為、現在は便宜上開先から10mmの位置での温度、いわゆるパス間温度を使って管理を行なっているのです。また、表の管理値は板継手を用いた時の実験結果を参考に決められた値です。しかし、実施工での柱梁溶接接合部は板継手に比べ体積が大きく熱容量が大きい為、その冷却速度は板継手に比べ早くなります。最近の研究報告によると柱梁溶接接合部では板継手と同じ冷却速度を確保するには板厚が21mm、入熱が20、40kJ/cm、パス間温度250度の場合約100度程度パス間温度を高く設定する事が可能である事が報告されています1)2)3)

入熱・パス間温度管理で重要な事は、入熱量・パス間温度そのものを管理する事が大切なのではなく、健全な溶接部(強度・靭性)を確保する事が最も重要な事である事は忘れてはならないでしょう。例えば、SS400にYGW18を使用した時の管理として低入熱・低パス間温度で管理したとします。その結果、母材に対して非常に強度の強い溶接部が出来上がってしまいます。要するに、使用する鋼材や部位などそれぞれ適材適所というものがあり、それぞれ設計者や管理者が的確に判断し、どの様な溶接条件を選定すれば健全な溶接部を確保する事が可能かという事を決定しなくてはならないのです。また、パス間温度はプロセス管理であり、管理するには費用と手間がかかります。そこで最近示温材などを用いた簡便な管理方法や溶接後に簡易硬度計を用いて、ある程度のレベルで溶接部の強度が推定できる方法が確立されてきているので、これらの手法を上手に適用するのも一つの方法です4)

1)鉄骨工事技術指針・工場製作編 日本建築学会2007.2
2)西田祐三・田渕基嗣・田中剛・中野利彦:冷却時間と化学成分を考慮した溶接金属の強度評価式鋼構造論文集 第12号 第49号 pp23-26 2006.3
3)中込忠男・服部和徳:建築鉄骨における溶接金属の強度と溶接条件の管理方法 日本建築学会構造系論文集 No.606 pp179-182 2006.8
4)建築鉄骨における溶接接合部の品質性能管理手法 建築鉄骨溶接特別研究会 研究報告書 溶接学会2006.12

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