建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

3-6 ノンスカラップ工法の優位性の根拠は

 ノンスカラップ用の加工方法についての提案が、鉄骨工事技術指針にありますが、もっと良い方法などがありましたら具体的に紹介してください。

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A

 現在、鋼構造建築物において梁部材にH形鋼を使用することがほとんどであり、梁フランジと柱スキンプレートもしくは梁フランジとダイアフラムを溶接接合する事で柱梁溶接接合部とするのが一般的です。その溶接接合の際、H形鋼のウェブがあるためスカラップを設ける事で裏当て金を簡単に取り付ける事が可能です。
 しかしながら、スカラップは幾何学的不連続である為スカラップ底に応力集中を発生させる源となります。さらに、スカラップ底はH形鋼のちょうどフィレット部分と重なる部分であり、特にロールH形鋼のフィレット部分は圧延の際の冷却時間の影響から靭性が低くなる事が一般的です。また、鋼構造建築物が地震力を受けるとき、梁の曲げモーメントは梁の端部である柱梁溶接接合部が最も過酷な状態となります。

 上述をまとめると、スカラップ付の柱梁溶接接合部は梁端部であるため高応力であり、スカラップによる応力集中、フィレット部の低靭性が重なり合っています。これらのファクターはまさに脆性破壊の発生条件です。実際に兵庫県南部地震においてもスカラップ部からの破壊が散見され、多くの実大破壊実験からもスカラップからの破断が問題視されています。一般的に脆性破壊を食い止める為には上述のファクターの一部を取り除く事で脆性破断を防止する事が可能であるといわれています。そこで最も簡単にこのファクターを取り除く方法としてはスカラップを設けない、いわゆるノンスカラップを使用することが最も手っ取り早い方法の一つです。

 既往の研究成果からも従来のスカラップ工法に対し、ノンスカラップ工法の優位性を示しています1)。これら論文の中で、ノンスカラップ工法を用いた場合、初層中央部に溶接欠陥が存在したとしても、最大耐力、変形能力に及ぼす影響は小さく、むしろノンスカラップ工法でフランジ中央部に溶接欠陥が存在しても、スカラップ工法で溶接欠陥が存在しない場合よりも力学的に優れた結果が得られ、またノンスカラップ工法では目違いがあっても影響は少なく、十分な耐力、変形能力が得られた研究成果も報告されています2)。また、ノンスカラップはスカラップに比べて最大耐力で約1割増、変形能力では約5割増あるいはそれ以上の性能となることが報告されています3)。

 ノンスカラップの詳細な制作方法等は建築工事標準仕様書JASS 6鉄骨工事4)や鉄骨工事技術指針・工場製作編5)に詳しく記述されているのでそれらを参考にしてください。

1)日本建築学会材料施工委員会鉄骨工事運営委員会:鉄骨工事(JASS6)運営委員会・調査研究成果報告書 3.スカラップWG 日本建築学会 2000.11

2)中込忠男・藤田哲也・南圭祐・李建・村井正敏:柱梁溶接接合部におけるノンスカラップ工法梁端ディテールに関する実験的研究 日本建築学会構造系論文集 No.498 pp.145-151 1997.8

3)中込忠男・山田丈富・村井正敏・的場耕・會田和広:ノンスカラップ工法における梁端ディテールが柱梁溶接接合部の変形能力に及ぼす影響に関する実験的研究 日本建築学会構造系論文集 No.546 pp.121-128 2001.8

4)建築工事標準仕様書 JASS6 鉄骨工事 日本建築学会 2007.2

5)鉄骨工事技術指針・工場製作編 日本建築学会2007.2

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