建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

2-12 高炉材と電炉材の性能の差

高炉材と電炉材で材質上どのような違いがありますか。

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A

鉄骨構造の主要部材に採用する鋼材は、強度保証型のSS材、溶接性を考慮したSM材、更に部材の塑性変形能力を期待して耐震性能を高めようとするSN材などがあり、これらを適切に使い分けて建築基準法で与えられたF値に基づき構造設計が行われることになっています1)。

ところで、鋼材の製法には高炉法と電炉法があります。しかし、建築基準法、JIS規格、学会規準等では高炉材と電炉材を区分して扱ってはいないので、高炉材の材料特性を前提として設計式なり構造規定等が与えられると考えておかなければなりません。

たとえば高炉材とも電炉材とも限定しないで構造設計がなされていた時に、何らかの事情で電炉材に変更となった場合を想定してみましょう。ここで、何らかの事情というのを具体的に考えてみると、①経済性、②少量多品種に対応、③納期などがあげられます。もちろん、高炉材としての構造安全性の検討はなされているが、電炉材に変更したことによる品質の低下が(有るとしたら)どのくらいあるのか明らかにされていないので、設計者の不安感は拭い切れないものと思います。そこで、鋼材の母材特性のうち、材質を表す特性値の一つとしてシャルピー衝撃値(遷移曲線)に注目し、高炉材と電炉材で比較・検討を試みました。なお、鋼材の母材特性をシャルピー衝撃試験の遷移曲線で代表させて検討することは、いささか乱暴の誹りを免れないが、感覚的な分析として利用しています。

データとしては少々古いものであるが、文献2)の18頁 図2.3.1を引用しで検討を加えます。ここで示しているのは、高炉材(2社抜取、板厚=25mm)及び電炉材(3社材、広幅平鋼、板厚=25mm)の主圧延方向(L方向)の遷移曲線です(図1)。先ず、この7本の曲線から大雑把に特徴が見えてきますが、それらをまとめて列挙すると次のようになります。

1)遷移曲線の遷移領域において高炉材と電炉材は重なった部分が判別しにくいので、高炉材と電炉材を別々の二つのグループに分けて分析することとする。

2)高炉材の上部棚吸収エネルギーは100℃付近で180〜240J、平均値が210J、電炉材は100℃付近で160〜180J、平均値が170J となっており、電炉材の上部棚吸収エネルギーは、高炉材の約80%と低くなっている。また、電炉材では上部棚が現われない遷移曲線もあった。

3)遷移領域における曲線の勾配は、高炉材が約25J/℃であったのに対して、電炉材は約15J/℃となっており、電炉材の遷移領域が大きいことを示している。また、エネルギー遷移温度は、高炉材が-20℃、電炉材が20℃となって電炉材の遷移温度が高くなることを示している。

以上は高炉材と電炉材の違いをVノッチシャルピー衝撃試験の遷移曲線を通して見てきたものです。この違いがどこからくるのかは不明ですが、原材料の鉄屑と圧延機の能力がこれらの特性形成に大きな影響を与えていることは間違いありません。

SN材のJIS化が1994年(平成6年)ですが、この特性研究はSN材の誕生以前のものです。その後の電炉業界は随分盛衰を経て再編されることとなります。即ち、トーアスチールは、1999年3月解散、条鋼事業部は日本鋼管(現在のJFEスチール)に再編。現在広幅平鋼は生産していません。石原製鋼所は、2003年に廃業。関西製鋼は2003年に臨港製鐵と合弁し新関西製鋼へ、現在も広幅平鋼を生産しています。大三製鋼は2014年2月平鋼事業部から退撤、トピー工業は、現在も広幅平鋼を生産しています。

一方の高炉材は、熱加工制御圧延(TMCP)された厚板が板厚40mmを超えてもF値を低減しないでよいとする特認により、建築の分野でもこの種の高級鋼が普及し、ほとんどの鉄骨構造超高層建築に使われました。P(りん)やS(硫黄)を極力減らして清浄度をあげ、10℃単位の精度で最終圧延温度を制御して金属の細粒化を行うTMCP工程を考えると、正に高級鋼と呼んでも遜色のない製品と言えるでしょう。パス間温度の管理に代表される溶接施工の管理の丁寧さを考慮すると鉄骨構造は更に高級度を増していると考えられます。鉄屑を主原材としたいわゆる電炉材であっても、従来の広幅平鋼というよりも高規格仕様の高炉材の厚板製鋼に近い圧延制御された鋼材も製造可能となっており、電炉材といっても高炉材に近い鋼材として扱えるものも市場に出るようになっています。設計者は鋼材メーカーの素材データを吟味して電炉鋼を適切に使いこなしていってほしいものです。

図1 鋼材のシャルピー衝撃遷移曲線2)

【参考文献】
1)(一社)日本建築学会:鋼構造限界状態設計指針・同解説、2010年
2)(社)日本鉄鋼連盟・広幅平鋼研究委員会:電炉「広幅平鋼」(SM50A)の力学的性能、溶接性等に関する特性研究、昭和63年(1988年)8月

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