2021年12月20日に溶融亜鉛めっきの規格がHDZ(付着量)からHDZT(膜厚)に表記が改定されました。(2022年12月19日まで猶予期間)
懸念材料として、亜鉛めっき合金層の中に鉄の成分が多い部分(境界部)の鉄に反応して膜厚が薄く出てしまう事とHDZT77の適用例で厚さ6mm以上の素材と記載がありますが6mmの場合はどうしても膜厚が確保しにくいとの話があります。
軽溝形鋼 (JIS G 3350) に関しては溶融亜鉛めっきは不可との事です。その点を踏まえて工事監理者に情報発信できる方法はないでしょうか。
1 溶融亜鉛めっきのJIS改正(JIS H 8641)
(一社) 日本溶融亜鉛鍍金協会は令和3年12月20日の文章でJIS改正について次のように説明しています (1)。
「旧規格の要求品質特性は,めっきの種類1種では硫酸銅試験回数,めっきの種類2種では付着量試験による付着量(協定により膜厚から付着量換算も許容)ですが,対応する国際規格(ISO1461:2009)では品質特性を膜厚としています。また膜厚計の精度もよくなり使用方法も簡便であるので膜厚管理が広く普及していますので,市場の実態を考慮し,めっき皮膜の規定を国際規格に整合させるべく膜厚としました。
JIS改正内容に沿ってめっき施工会社は社内基準などを整備し,JIS表示登録審査を受ける必要がありますので,詳細スケジュールは各社に問い合わせてください。」
このように今回の改正は溶融亜鉛めっき作業のプロセスに関係するものでなく,めっきの品質特性を付着量から膜厚に変えるというものです。
2 旧規格(表1)におけるHDZ55 の適用例と備考について
適用例として「過酷な腐食環境下で使用される鋼材・鋼製品および鋳鍛造品類」とあり,素材の厚さは備考に「素材の厚さは6mm以上が望ましい。6mm未満の場合は当事者で協議する」と記載されています。また,HDZ55以外の適用例に「過酷な環境・・」という記載はなく,素材の板厚と製品の種類だけです。
今回の改正でHDZ55 以外の記載内容と合わせるようにHDZ55から過酷な環境・・の記載はなくなり,旧規格の備考にある「HDZ55のめっきを要求されるものは,素材の厚さ6mm以上であることが望ましい。」の板厚が改正後の適用例に記載されています。
3 めっきされる素材と付着量の関係
3-1 適用板厚と付着量の関係は今回のJIS改定と関係ありません。
板厚と付着量はJISを原則とすべきと考えますので,例えば板厚6mm未満の素材にHDZ55を要求するような場合は問題があります。
めっき付着量に影響する素材の諸元として板厚と化学成分(特にSi量)があります。
Si量が微量な場合(図1-1),板厚が薄いと高付着量は難しくなります。一方,Si量が増えると(図1-2),薄板でもめっき浸漬時間を長くすれば付着量は増えますが,めっき合金層が厚くなりすぎて不具合を生じ易くなったり(図2),熱変形が過大となるなど品質上の問題が生じる恐れがあります。
3-2 「6mmの場合膜厚が付きにくい」ということについて
HDZ55の適用は6mm以上ですのでちょうど6mmの場合,膜厚が付きにくいというより変形や外観不具合などの可能性を示唆しているのかもしれません。
HDZ55の適用例について旧規格の備考にある板厚6mm未満は受渡当事者による協議となっていますので,この考え方を踏襲する必要があると考えます。
3-3 「軽溝形鋼はそもそもめっきは不可」という見解について
JIS G 3350 SSC400 一般構造用軽量形鋼で考えます。板厚は1.6, 2.3, 3.2, 4.0, 4.5, 6.0で,6mm未満がほとんどです。また化学成分はC, P, Sのみ規定されSiは規定されていません。実際の製品の化学成分の実態は承知していませんが,Si量が微量との見解もあります。
これらを考えると,板厚6mm未満はHDZA〜HDZ50(HDZT35〜70)ですので,「めっきは不可」ではなく,例えば「板厚6mm未満にHDZ55 (HDZT77)などの高付着を要求するのは適切でない」という意味と考えます。このような薄板の溶融亜鉛めっきにJISを超えるような付着量・膜厚が特記されている場合は板厚と要求膜厚の関係を確認し,要求膜厚を変更してもらうことも必要と考えます。
参考・引用資料
1.(一社)日本溶融亜鉛鍍金協会 溶融亜鉛めっきに関するJIS規格の改正について
令和3年12月20日
2. 日本建築学会 鉄骨工事技術指針:工場製作編第7章
3. 日本鉱業協会 鉛亜鉛需要開発センタ― パンフレット「めっき素材の厚さと亜鉛付着量」
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