パス間温度と入熱の管理はどの程度必要なのですか。
鋼は組織が変化するA3変態点(約850℃)から500℃程度までの冷却速度が機械的性質を大きく左右すると言われています。例えば,ショートビードのように冷却速度が非常に速いと,非常に硬くて脆いマルテンサイトが現れます.反対に冷却速度が遅すぎると,今度は結晶粒が粗大化し,強度や靱性は低下します。
降伏は金属結晶内のすべり(転位の移動)によって生じますが、個々の結晶粒は互いに異なる結晶方向を有しているので,結晶粒界は転位の移動の妨げとなります。結晶粒が大きいと結晶粒界は減少し転移の移動が起きやすくなり強度は低下します。従って,結晶粒が粗大化しないようにある程度の冷却速度が必要になります。本来ならば溶接金属の冷却速度を管理すべきですが,実際には溶接金属の冷却速度を管理することは困難であるため,代わりにパス間温度や入熱を用いています。
ショートビードの禁止やパス間温度や入熱を制限することは,実はこれらの制限により,溶接金属の冷却速度を制御していることになり,強度や靱性を確保するための重要な管理項目の1つになっています。
具体的な管理の方法としてはパス間温度の場合は,複数の継手を同時に並べて溶接し,連続して溶接するパス数を決めてローテーションすることでパス間温度の上昇を抑える方法が考えられます。また,1パスで溶接できる断面積は入熱によって決まりますので,板厚によって標準積層数や最低パス数を決めておくことで入熱を制御することができます。
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