建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

2-16 大梁へのSM490A材の使用

 ある設計者より大梁材に「SM490A」は推奨しない,と話をされたことがありました。他の物件においては使用している場合もありましたが,推奨しない理由は何でしょうか。
 また端部材としてはいかがでしょうか。

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A

SM490AはJIS G 3106(溶接構造用圧延鋼材SM)に規定される鋼材のうち,引張強さが490N/mm2級でシャルピー吸収エネルギーの規定のないものです。因みに,SM490Bは27J以上,SM490Cは47J以上のシャルピー吸収エネルギーが規定されていますが,建設分野では一般的には使われません。
 SN材の規格が制定される以前は,鉄骨造建築物には主としてSS400とSM490Aが使われてきました。しかし,1981年の新耐震設計法の施行以降,建築物の耐震安全性を確保するために鋼材の塑性変形性能が活用されるようになり,これらの鋼材規格ではその要求性能が十分に満たせないため,1994年にJIS G 3136(建築構造用圧延鋼材SN)が制定されました。
 SN材にはA,B,Cの3種があり,このうちB種は,塑性変形性能と溶接性の確保を意図し,柱や大梁などの部材に適用されます。表1にSM490AとSN490Bの主な規定項目を並べて示します。SN490B材では,SM490AにはないCeqまたはPCMの上限,降伏点または耐力の上限,降伏比の上限およびシャルピー吸収エネルギーの下限が規定されています。

表1 SM490AとSN490Bの化学成分と機械的性質の比較(板厚40mm以下の場合)

 SN490Bの規定のうち,SM490Aにない規定について以下に説明します。

(1) CeqまたはPCMの上限
 炭素当量(Ceq)とは,溶接熱影響部の最高硬さに及ぼす鋼の化学成分の影響について,炭素と他の合金元素の影響を炭素含有量に置き換えて指標化したもので,次式で計算します。

 溶接部の最高硬さが高くなると割れやすくなるため,SN490B においては炭素当量が 0.44%以下に制限されています。また,炭素当量の代わりに,別の式で計算される溶接割れ感受性組成(PCM)の規定値を適用してもよいとされています。
 なお,このほかにも,SN490B においては,溶接部の強度と靭性に悪影響を及ぼす P と Sの含有量が SM490A よりも小さく規定されています。

(2) 降伏点または耐力の上限
 降伏点または耐力の下限だけしか規定しないと,降伏点のバラツキが大きくなり,大地震時に設計で意図した部分でないところに損傷が生ずる可能性があります。このため,SN490B では降伏点または耐力の上下限の幅が 120N/mm2と設定されています。

(3) 降伏比の上限
 降伏比とは,降伏点または耐力の値を引張強さで割ったものです。
 図 1 は,中央部の断面積が徐々に小さくなる部材で,降伏比 Y が 0.5 の部材 1 と 0.8 の部材 2 について,引張荷重と伸びの関係を比較したものです。最大荷重 Tmax は同じですが,降伏比の低い部材 1 の方が中央の塑性化領域の広がりが大きく,最大伸びδmax が大きくなることが分かります。
 図 2 は,H 形断面材の片持ち梁で降伏比 Y が 0.5 の部材 1 と 0.8 の部材 2 について,先端に集中荷重が作用した時の曲げモーメント分布と変形図を示します。この曲げモーメント分布は,地震荷重を受けるラーメン構造の大梁の端部と同じです。この場合も,最大曲げモーメント Mmax は同じですが,降伏比の低い部材 1 の方が固定端側(左側)の塑性化領域の広がりが大きく,梁先端の最大たわみδmax が大きくなることが分かります。
 このように,塑性変形能力を確保するためには,降伏比を低く抑えることが重要となります。SN490B では,降伏比の上限は 80%に規定されています。

(4) シャルピー吸収エネルギーの下限
 耐震設計の上では,鉄骨部材が十分な塑性変形を示すまで接合部が破断しないことが重要です。このため,溶接接合される鋼材には,鋼材の靭性を表す指標である「シャルピー吸収エネルギー」が大きいことが要求されます。SN490B においては,試験温度 0℃で 27J 以上のシャルピー吸収エネルギーが規定されています。

 なお,「端部材」に関する質問については,「端部材」が大梁の端部(ブラケット)の意味であれば,端部は曲げモーメントが最大となり,塑性変形能力が最も要求される部位なので,SN材の B 種が必須となります。小梁等の二次部材の意味であれば,溶接性や塑性変形能力は期待されないので,SM490A を使用しても問題ありません。

図 1 降伏比の違いによる引張材モデルの塑性変形能力の比較1)

図 2 H 形断面の片持梁における塑性変形能力1)

<引用文献>
1) 日本鋼構造協会編:わかりやすい鉄骨の構造設計(第 4 版) 技法堂出版 2009 年 10 月

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