建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

4-7 完全溶込み溶接T継手の余盛について

 「T継手の余盛、隅肉溶接」に関して教えてください。このうちJASS 6などで規準化されているのは、“突合せ接手の余盛高さ”と“T継手の余盛高さ”だと思います。また、余盛の高さhについては標準値とありますが、この規準の背景と理由についても教えてください。t=9と25の規準の幅はどうなるのか、混乱しておりますのでお願いします。

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A

 余盛の溶接を付加する目的は、図1に示す開先を取っている側を梁フランジ、他を柱フランジとすると、反対側を含め、溶接形状も同じ十字継手となります。力学的な観点から、柱フランジに長期的に生じる軸力(鉛直力)と、地震時や暴風時に短期的に生じる荷重(水平力)が付加される等の他、梁フランジに生じた応力を柱フランジを介してスチフナに伝達する必要があります。つまり、柱フランジの十字継手部における2方向(鉛直と水平)の応力に対して、検討が必要となります。この応力検討時に、梁フランジの応力は、余盛を付加した分だけ梁フランジの応力を低減(1/1.25〜1/1.5)できることで、設計上有利になります。

 一方、鋼材の強度面から述べると、現在の連続鋳造法で製造された鋼材(通称CC材という)は、以前のインゴット法で製造された(通称IC材という)に比較し、圧延上の強度異方性(L,C,Z方向という)が少なく、板厚方向(Z方向という)の強度や靭性も十分確保できています。しかし、昭和40年初め頃の鋼材では、まだ、IC材で圧延技術や圧延能力が低かったため、L方向(圧延方向)に対しZ方向の引張強度比が半分位の値の材料が供給されていました。特にロールH形鋼のフランジ材にこの傾向が顕著だったことから、当時の溶接部の接合部の実験等によって、補強盛りが定められたようです。

 当然、設計における十字継手の検討には、図1に示す裏当て金のある溶接にするか、裏当て金なしの両面溶接とするかは、応力解析を行う必要があります。中高層建築のSRC造やS造では、応力の余裕があるため、あまり検討しないのですが、場合によって、柱・梁接合部で、梁フランジを水平ハンチにする等の工夫が必要な設計も生じます。

図1
図1

 次に実際に溶接を行う場合の基本は、図2のように、まず突合せ溶接と同様に開先のある母材の板厚を下回らない最小の余盛を必要とします。

 現在のCO2溶接の場合では、下向姿勢で行う溶接のウィービング法(運棒という)を行えば、3〜5mm位の余盛形状も柱フランジ側にうまく盛れるので問題ありません。むしろ、ビード形状は、良い形状といえます。板厚が厚くなると、最終溶接パス数を2〜3パスで盛る等の工夫をすれば、余盛の高さの確保は十分可能です。また、図2に示す余盛の高さは、板厚に付加する部分(図中h寸法)が重要ですから、溶接ビード幅方向の脚長は、ある程度滑らかに溶接すれば問題ありません。

 溶接ビード外観は、溶接姿勢に左右され、特に横向姿勢の溶接では、過剰なビードになりやすく、製品検査時のクレームの原因となります。逆に下向姿勢では余盛高さ不足に注意する必要があります。

 また、9mmと25mmの基準値の幅についてですが、9mmに対する余盛の高さは3mm以上、25mmに対しては6mm以上溶接すれば十分設計値を満足すると思います。この程度の余盛は、1パスの隅肉溶接を行う事で解決します。

図2
図2

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