建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

4-23 異強度材溶接で, 溶接材料選定の考え方は

 通しダイアフラム(490N/mm2級鋼)と梁(H形鋼、400N/mm2級鋼)の溶接にYGW11を使おうと考えています。その際、工場認定書に添付されている入熱・パス間温度で管理しようと考えていますが、低強度側400N/mm2級鋼材の条件を適用し40kJ/cm以下、350℃以下で管理・施工する解釈でよいでしょうか。

 このような鋼材強度の組合せの場合、どのような溶接材料を適用するべきか、また、これに関して記載している図書を教えて下さい。

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A

 御質問のような鋼材の組合せ部材について、設計と溶接材料選定に分けて考えてみます。

1.設計について
 参考文献1の告示2464号では、低強度側鋼材の基準強度を用いるとしていますので、この例では、400N/mm2級鋼、例えばSN400, SS400の基準強度235 N/mm2を用いて設計することになります。

2.溶接材料の選定
 溶接材料の選定については、参考文献2の告示1464号に従うことになります。  告示の文章、「鋼材の種類に応じ、それぞれ・・」のうち、「鋼材の種類」として通しダイアフラムの鋼材種、梁の鋼材種が考えられますが、どちらの鋼材種による材料を選定しても問題はありません。  ただ、1.に述べた設計の考え方を援用すれば、低強度側、この場合は梁フランジの鋼材種に応じた溶接材料を選定すればよいと考えます。  従って、参考文献2にあるように、400N/mm2級鋼の降伏点(又は0.2%耐力)・引張強さを有する材料を、指定建築材料に指定されているJISの中から選定することになります。そして、ソリッドワイヤを使う場合、その規格JIS Z 3312でこの条件を満足するワイヤはYGW11〜YGW19です。

 このように御質問にあるYGW11はこの条件を満たしており、また、溶接条件は工場認定書の添付条件で行うことになりますのでご質問にある解釈で良いと考えます。

 強度の異なる鋼材の溶接については参考文献3〜5に記載がありますが、建築鉄骨のほかの分野においても強度の低い側の鋼材に適合した材料を使用するのが一般的です。特殊な例の一つとして建築構造用低降伏点鋼材(LY100, LY225)とSM490などの溶接があります。この場合、その低強度鋼材に適合した溶接材料は市販されていないので、高強度側の溶接材料を使用することになります。

 建築鉄骨においては、低強度側の降伏点・引張り強さ値以上であれば良いとしていますので、ご質問の例の場合、YGW18(降伏点460 N/mm2以上、引張強さ550 〜740N/mm2)を使用することも可能です。

<参考文献>

1. 建設省告示 平12建告2464号第2の抜粋

「第2 溶接部に許容応力度の基準強度

一 溶接部の許容応力度の基準強度は、次号に定めるもののほか、次の表の数値(異なる種類又は品質の鋼材を溶接する場合においては、接合される鋼材の基準強度のうち小さい値となる数値。次号並びに第4第一号本文及び第二号において同じ。)とする。」以下、省略。


2. 建設省告示 平12建告1464号の抜粋

「二 ロ 鋼材を溶接する場合にあっては、鋼材の種類に応じ、それぞれ次の表に定める溶着金属としての性能を有する溶接材料を使用しなければならない。」
この表においては、溶接される鋼材の種類毎に溶着金属としての性能が示されています。

400N級炭素鋼の場合、溶着金属としての性能は、降伏点又は0.2%耐力は235 N/mm2以上、引張強さは400N/mm2以上となっています。


3.  接合・溶接技術Q&A Q06-01-19 (社)日本溶接協会 / 溶接情報センター

「軟鋼と590 N/mm2級高張力鋼の異強度材の突合せ継手に使うべき溶接棒の選定と施工上の注意事項について教えて下さい。」の回答抜粋

「強度的には高強度母材側でも低強度母材側でも、またその中間でもよいが、溶接継手としての性能は低強度母材側の溶接材料でも十分であるので、低強度側の母材に合わせた溶材選定としているのが一般的である。」


4. 新版溶接・接合技術特論 (社)溶接学会

P.463 (3)母材と溶接材料の組合せの計画 ①母材に対応する強度水準

「一般に、開先溶接では母材の引張強度と同等かそれ以上の強度の溶接材料を用いる。強度レベルの異なる母材の組合せ継手に対しては、一般に強度の低い側の母材に適合したものを使う。」


5.  NEWびいどNo.40 2012 October 日鐵住金溶接工業(株)

P.11 溶接材料の選択について

造船、建築、道路橋、発電用設備の分野における考え方が紹介されています。

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