建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)  
 
Q

1-9 完全溶込み溶接T継手と隅肉溶接

(a) 完全溶込み溶接T継手の箇所を隅肉溶接にできないのでしょうか。
(b) 隅肉溶接のサイズは、板厚の0.7掛けでなければならないのでしょうか。

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A

 隅肉溶接部は、溶接線に作用する応力の方向によってそれが溶接線と直交する方向の応力である場合は、前面隅肉溶接、溶接線に平行な方向に作用する場合は側面隅肉溶接となります。(a)の場合は、前面隅肉溶接の設計に関する質問であり、(b)の場合は、側面隅肉溶接の設計に関する質問です。なお、いずれの場合も隅肉溶接部が負担する応力は、計算上溶接部ののど断面で負担するせん断力であり、その短期許容応力度はF/\(\sf\sqrt{3}\)となります。

 まず、(a)の質問に回答します。この場合、ご指摘の通り、隅肉溶接部で鋼板の許容引張耐力を確保すれば、溶接部は保有耐力接合となり、このような設計は、建築基準法でも日本建築学会の設計規準でも禁止されているわけではありません。確かに隅肉溶接では、接合する板に開先加工を施す必要がなく、溶接部の超音波検査も必要はありませんので、施工管理は完全溶込み溶接に比べて容易です。

 しかし、この条件を満たす隅肉溶接のサイズを計算してみると板厚の1.24倍以上必要となります。その状況を示したのが図1です。

 表1は、完全溶込み溶接の開先寸法をルート間隔7mm、開先角度35度、余盛の高さt/4とした場合と隅肉溶接サイズを1.24t(t:接合板の板厚(mm)とした場合の溶接量の計算値を接合する板厚を9mmから25mmについて示したものです。このように隅肉溶接の方が溶接金属の量が大きくなり、その差は、板厚が大きくなると激増してしまいます。また、溶接部全体で考えた場合、重要な溶接接合部に不溶着部が存在すること、溶接部の品質に疑問が生じることなどの点から考えて、実際には板厚が12mm程度までに適用するのが妥当と考えます。 ( 図1参照 )


表1 母材の短期許容引張耐力を伝達するのに必要な溶接量(mm²)の比較(400N/mm²級鋼)

図1 隅肉溶接部と完全溶込み溶接部の比較

 次に(b)の質問に回答します。隅肉溶接は、そこに作用する応力を溶接部のせん断応力として伝達する接合法です。従って、隅肉溶接のサイズの設計では、作用する応力を隅肉溶接部の有する許容せん断応力以内となるようサイズを設計することが基本です。そのための設計法が日本建築学会の鋼構造設計規準に記されています。一般的には、その設計式を使用して応力算定を行って、隅肉溶接のサイズを決定することが基本です。隅肉溶接部によってせん断力を伝達するものとして鋼板を接合する場合は、サイズを板厚の0.7掛けとすれば接合する板の負担するせん断力ほぼ伝達することができますが、そのことを理由としてこの条件が隅肉溶接のサイズを決める際の一般的な規定ではあるとは限りません。

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